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Wednesday 26 June, 2002

※過去の「青空日記」から移植した記事です。

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■ 2002年6月26日(水)


藤沢周平 『秘太刀馬の骨』
(文春文庫、318p、1995)

 時代小説。「藤沢氏の本がおもしろい」と人にすすめられて読んだもの。「どの本を」とは特に言われなかったので、ちょっと調べてみたら、藤沢氏には70冊近くも著書があり、何を読んだらいいのか困ってしまった。推薦者に「どの本を?」ときいたところ、「どの本でも」ということだったので(もう少し正確には「手に取った本ならどれでも!」ということだったのだが)、図書館に行って、本当にあてずっぽうに、背表紙から放たれている「後光」を頼りに見極めて(?)借り出した本がこれだった。結論だけ先に言うと、興味深く、おもしろい本だった。

 いつの時代のどこの藩が舞台なのか、そうしたことは明らかにされていないのだけれど、まあ、江戸時代のいつか、東北地方のどこかの小藩が舞台ということは、時々、東北の言葉らしきものが登場するので、読んでいるうちにそれとなくわかる。タイトルだけ見た時は、「『秘太刀馬の骨』って何だろう? 馬の骨で作られた秘密の刀? その刀が次々と人を殺してゆく猟奇事件(辻斬り)を描いた小説かな?」とか、そんなトンチンカンなことまで考えていた。

 「馬の骨」というのは刀剣の名前ではなく、剣術の「技」の名前だった。それも、ある流派の奥義中の奥義として伝えられてきた、門外不出の「技」のことだ。その「技」が「馬の骨」という名前で呼ばれるようになった由来は物語の中で昔語りのうちに明かされる。その由来そのものが物語としておもしろい。

 「馬の骨」という「技」を使って、かつて家老を暗殺したのは誰だったのか。この「技」を伝えられた剣術使いとはそもそも誰なのか。家老に命じられた家老の甥(石橋銀次郎)と主人公(浅沼半十郎)が、「馬の骨」を奥義として伝えている不伝流の高弟たちの中から、「馬の骨」の使い手を探すことが小説の中で語られている。その探索の仕方がなかなか挑戦的だ。探索を命じられた銀次郎(これもなかなかの剣の使い手)は不伝流の高弟たちそれぞれに試合(というより、ほとんど「決闘」)を挑む。ところが不伝流は他流試合を禁じているので、高弟たちはそうやすやすとは銀次郎の誘いに乗らない。そこで銀次郎は高弟たちそれぞれの弱みを握り、それをネタに脅しをかけて試合を挑みかける。

 ごく平凡な「リーマン侍」にも見える高弟たちにも、人には言えない事情が背後にあること、このあたりの物語が実に巧みでおもしろかった。さらには高弟たちと銀次郎との試合がいずれも個性的で、これもおもしろかった。銀次郎という青年、腕に覚えがあることを鼻にかけており、どうもいやな奴なのだが、物語が進むうちに、その執念深さには「マニア的な匂い」が感じられ、そう、いやなやつという気もしなくなってくるから不思議だった。

 最後には誰が「馬の骨」の使い手か、家老がなぜ「馬の骨」の使い手を探索させたか、そうしたことが明らかにされるのだけれど、それがまるで主人公(半十郎)を探偵役にした推理小説の謎解きのようでおもしろかった。銀次郎と半十郎が対する高弟たちとのエピソード、その1つ1つが短編として独立させてもよいと思えたし、そうした短編が連なって1つの長編小説として成立しているのは、まるでシューベルトやシューマンの連作歌曲集のようでおもしろかった。

 で、主人公の視点とか、作者の、淡々とした中にも人間を描こうとする姿勢に、これが日本の時代小説にもかかわらず、読みながら、なぜかイギリスの中世を舞台にした推理小説、「修道士カドフェル・シリーズ」を思い出した。というわけで、カドフェル・ファンにはすすめたい1冊。


追記) 「修道士カドフェル・シリーズ」は全20巻。私がクリスティより熱烈に推薦する推理小説があるとしたら、それはきっとこのシリーズのことだろう。ヨーロッパ中世の歴史書にも書かれていないような、本当にあったおもしろいエピソードが織り込まれているので、ヨーロッパの中世史ファンなら、いろいろ楽しめるはず。





文藝春秋 (1995/11)
文春文庫




文藝春秋 (1992/12)
単行本


Tuesday 18 June, 2002

※過去の「青空日記」から移植した記事です。

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■2002年6月18日(火)


ジェフリー・アーチャー 『十一番目の戒律』
Archer, Jeffrey : The eleventh commandment
(永井淳訳、新潮文庫、517p、1999)

 さて、少し前だけれど、やっとこれを読み終わった。物語の方向がどこに向いているのか、最初のうちはイマイチ把握できず少し退屈したのだけれど、後半は(とりあえず)一気に読めた。

 主人公コナーはCIAの秘密部署の部員。彼がかかわった南米、ロシアの要人の暗殺計画を中心に描いた話で、そこにCIA女性長官の独走(暴走?)とロシア・マフィア、さらにはアメリカ大統領直属のエージェントなどがからんでくる。アーチャーはこの物語でアメリカにおける「無名の英雄」を描きたかったのかなと推測。つまり、国のために身を尽くし、英雄的な行動をとったにもかかわらず、その行いはおろか名前さえ誰にも知られないまま闇に葬られた人々がいるのだ、、、ということを語りたかったのだろうかなぁ、と。

 アーチャーらしい、単純な(と言ってしまってはミもフタもないかもしれないけれど、言葉をかえれば「明快な」)人物設定(&描写)が実は私にはやや退屈なのだけれど(アメリカ大統領=善、ロシア大統領=悪の権化、みたいな図式、特に『盗まれた独立宣言』のフセイン同様、型にはまりきった「悪役」として描かれているロシア大統領)、ドンパチありの、長くて込み入った話、日本で言えば、いわゆる「任侠もの」の超大作(?)のようなものを読みたい人にはおすすめかなあと思う。長いけれど、展開がめまぐるしいので、読んでいてもそんなにダレない。

 とりあえず、この10年の間に出版され、これまで未読だったアーチャーの長編小説はすべて読み終わった(ということは、私がアーチャーを読んだのは10年ぶりということだ)。以下に日本で翻訳出版されているアーチャーの著作をリストアップしておく。一部、入手できない本もあるけれど、長編小説はどれでも入手しやすいと思う。なお、『百万ドルをとり返せ!』は映画に、『ケインとアベル』はテレビドラマになっている。 (ほかのものも映画やドラマになっているのかもしれないけれど、私は見てないので知らない) ところで政治家としてのアーチャー自身、スキャンダル&エピソード満載のようなので、そのうち、自伝&回顧録など、出したら出したで、これも話題になりそうです。


@ジェフリー・アーチャー 著作リスト

[長編小説]
百万ドルをとり返せ! (新潮社、1977)
大統領に知らせますか? (新潮社、1978)
ケインとアベル (新潮社、1981)
ロスノフスキ家の娘 (新潮社、1983)
めざせダウニング街10番地 (新潮社、1985)
ロシア皇帝の密約 (新潮社、1986)
大統領に知らせますか? (新潮社、1987)
チェルシー・テラスへの道 [上・下] (新潮社、1991)
盗まれた独立宣言 [上・下] (新潮社、1993)
メディア買収の野望 [上・下] (新潮社、1996)
十一番目の戒律 (新潮社、1999)

[短編集]
十二本の毒矢 (新潮社、1987)
十二の意外な結末 (新潮社、1988)
十二枚のだまし絵 (新潮社、1994)
十四の嘘と真実 (新潮社、2001)

[舞台作品]
無罪と無実の間 (新潮社、1988)
最後の特ダネ (新潮社、1993)

[その他]
ジェフリー・アーチャー日本を糺す (講談社、1993)




Sunday 19 May, 2002

※過去の「青空日記」から移植した記事です。

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■2002年5月19日(日)


ジェフ・アボット 『図書館の美女』
Abbott, Jeff : The only good Yankee
(佐藤耕士訳、ハヤカワ文庫ミステリアス・プレス、389p、1998)

 アボットの「図書館」シリーズ第2作。一応、作者のアボットについて簡単に紹介しておくと、、、アメリカ、テキサス州ダラス出身。1994年に『図書館の死体』を発表。これがアガサ賞、マカヴィティ賞の最優秀処女長編賞を受賞。この『図書館の死体』はシリーズ化して、現在、日本では第4作まで翻訳されている、、、らしい。

 『図書館の死体』の主人公、ジョーダン・ポティート(テキサスの田舎町ミラボーの図書館館長。32歳)が当然この『図書館の美女』でも活躍。ジョーダンのボストン時代の恋人が突然、ミラボーに現れ、今現在の彼の、比較的落ち着いた暮らしをひっかきまわす。こういう出だしからして、「事件の予感」でプンプン。(この「事件の予感」プンプンが推理小説の1つの醍醐味!) 推理小説なので舞台はのどかな田舎町でも、やたらと事件頻発。連続爆弾騒ぎ、地上げと、地上げ業者に対抗して乗り込んできた環境保護活動家、そして、やっぱり殺人、、、。

 田舎町の事件簿、推理小説としての興味は尽きない(やはり、ミス・マープルを思い出す!)のだが、人物描写には作者のユーモアと、ある種の辛辣さをみることができ、これがなかなかおもしろい。さらに主人公が背負っている背景(それは主人公が現在置かれている状況だけではなく、現在にまで影響を及ぼしている少年時代の出来事、家族にまつわるエトセトラ、ボストンでの思い出など)が丹念に描かれているので、主人公が厚みをもった立体的な人間として身近に感じられた。それにしても、この主人公の性格、私にはどことなくヘイスティングス(もちろん、ポアロの相棒の!)を思い出させるものがあるような気がするのだけれど、、、。

(早川書房: http://www.hayakawa-online.co.jp/




ハヤカワ・ミステリ文庫 (2005/7/21)




ハヤカワ文庫 ミステリアス・プレス (1998/02)


Saturday 18 May, 2002

■2002年5月18日(土)


ジェフ・アボット 『図書館の死体』
Abbott, Jeff : Do unto others
(佐藤耕士訳、ハヤカワ文庫ミステリアス・プレス、398p、1997)

 アーチャーの本を探していて、図書館の文庫本のコーナーの著者名「ア」のところで見つけた推理小説。題名がおもしろい。図書館で殺人だなどとは、本をめぐっての殺人事件なのかな、じゃ、ウンベルト・エーコみたいな感じかな、などと想像して本を読みはじめた。物語の主人公は若い図書館長。都会で敏腕編集者をやっていたが、痴呆症の母親を看病するために、故郷の田舎町に戻り、そこで小さな図書館の館長として仕事をはじめたところだ。館員が館長を入れて2人しかいない田舎の図書館、、、なんとも鄙びた設定なのだが、これがミス・マープルの物語を彷彿とさせるような成り行きを作り出している。人物の描き方や舞台となっている田舎町の描き方が巧みでおもしろい。また、物語の展開も「推理小説」としてよりは、主人公の奇妙な体験談として強烈な内容。秘密が暴露されることで、人間の内面における本質的な何かが劇的に変化するというのは物語としては重要な要素だろう。(この本を最後まで読むと私の言っていることの意味もわかるだろう)

 アメリカの田舎町の図書館には、きっとこういう人達が入り浸っているのだろうなと思える常連達の描写も興味深かった。個人的にはSFマニアの高校生が私のよく知っている人達に重なって(かなり!)おかしかった。私が高校生の時にも、周囲にこういう友達(サリンジャーよりアン・マキャフリイやピアズ・アンソニイやトールキンを推奨する人達)がたくさんいたから。(もちろん、サリンジャー派も多かったけどね。)

(早川書房: http://www.hayakawa-online.co.jp/




ハヤカワ・ミステリ文庫 (2005/3/9)



ハヤカワ文庫 ミステリアス・プレス (1997/03)


Saturday 18 May, 2002

※過去の「青空日記」から移植した記事です。

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■2002年5月18日(土)


ジェフリー・アーチャー 『十二の意外な結末』
Archer, Jeffrey : Ttwist in the tale
(永井淳訳、新潮文庫、316p、1988)

[完全殺人/清掃屋イグナチウス/ア・ラ・カルト/本物じゃない/気のおけない友達/掘出しもの/ブルフロッグ大佐/チェックメイト/泥棒たちの名誉/うちつづく事故/抜け穴/クリスティーナ・ローゼンタール]

 アーチャーの短編小説。これは秀逸。登場人物たちも、彼らが置かれた状況も、物語のストーリーも、まったく異なる12の物語。いずれも最後にオチがつくのだが、このオチ、ブラックであったり、皮肉のこもったジョークになっていたりして、おもしろかった。人間の欲の皮のつっぱったところを、べろんと広げて、拡大してみたら、こんな短編集になりました、というくらい、人間の持つ強欲な心理、おかしなことにこだわる心理、あるいは虚栄心、そんなものが巧みに素材として扱われていて、アーチャーが長編小説で描くような壮大なドラマとはまったく違ったおもしろさがあった。人間を巧みに、しかも知的に描いた傑作短編集だと思う。「完全殺人」「本物じゃない」「掘出しもの」あたりが特におもしろかった。




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